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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)1271号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人葛井重雄、同葛井久雄の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、所論のゴルフクラブ入会金預り証は商法五一九条所定の有価証券に当たらないとした判断は、正当として是認することができる(最高裁昭和五二年(あ)第一七三二号同五五年一二月二二日第一小法廷決定・刑集三四巻七号七四七頁参照)。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(藤﨑萬里 本山亨 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人葛井重雄、同葛井久雄の上告理由

原判決は、商法五一九条(同条によつて引用する手形法一六条)有価証券の解釈を誤つた法令違背があるので本件上告に及んだ。

一、原判決は、上告人が、本件会員権につき、善意取得したとの主張につき、本件会員券(原判決は預り証と表示)は「預託金会員組織のゴルフ会員権(を表象するもの)であつて、それは、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金返還請求権のほか、年会費納入の義務も包含した、個々の会員と更生会社との間の債権的法律関係にほかならず、その譲渡のためには、ゴルフ倶楽部という集団ないし、その構成員の利益保護を図るため、理事会の承認を要するものとされ、その預り証にも明記されているうえ、右譲渡には義務も伴つているのみならず、指図文句の記載もない」という点をとらえて、本件会員券の有価証券性を否定した。

二、しかしながら、本件と同種の預託金会員権制の預り証に関し、東京高等裁判所は、その有価証券性を認めた判決をしており(同裁判所昭和五二年(ラ)第六四八号昭和五四年一月二五日決定判例時報九一七号)それによると

1 民法施行法七五条にいう指図証券性に関しては、必ずしも指図文句の記載は必要でなく権利の移転行使がその証券をもつて行われる以上、指図証券性が認められる。

2 このような預託証券が取引の対象とされ、これに表示された預託金額を越えた市場価格が形成されている。

3 本件証券は記載上から記名式であるが譲渡が自由である旨記載され、裏書の方式により転々譲渡がなされている。

4 理事会の承認は必要であつても、それだけの理由で本件証券の譲渡性を否定するものでない。

5 また保証金の返還、会員権の譲渡など、権利を主張するには、本件証券の所持を必要とするなどの理由により、有価証券性を認めた。

三、本件「預り証」は右東京高裁の認定した会員証と全く同じ性質の証券であり、本件預り証を有価証券と認めなかつたのは、商法五一九条の解釈を誤まつたものと言わなければならない。

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